バスを降りる時には、自分がどうなってしまったのかわからない初めての感覚に、パニックになっていた。
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急に目の前がぼやけ、身体に力が入らない。降りた場所は会社に行く途中のバス停。
知らない町に降りたところで、どこに行けばいいのか。


運よく、バスを一緒に降りた婦人が目の前にいた。



「すみません。具合が悪くなってしまって」と声をかけた。
そしてその婦人の手につかまった。
優しい人だった。「私これから病院にいくところだったけど。どうしますか?」と聞いてくれた。

そのまま一緒に連れて行ってもらう事は頭に浮かばず、とにかく自宅に帰りたかった。

外で倒れて、人に迷惑をかけたくなかった。この時すでにこの婦人には迷惑をかけたが、自分で動けるうちに家に帰ろうと思った。

悪い病気だとかは全く思わず、休めば治る感じがした。だが、自分がおかしくなったという恐怖心があった。
今なら脳の疾患かと思って救急車を呼ぶか、近くの病院に駆け込むだろうが、当時まだ若かったのでそこまでは頭に浮かばなかった。

「家に帰りますので、タクシーを拾ってくださいませんか」
とお願いし、必死で婦人にしがみついて何とか立っていた。

「私にも娘がいるのよ。わかるわ。ちょっと待ってね。」と言って、タクシーを止めてくれた。

タクシーに乗るとお礼を言って自宅に向かった。婦人の名前も聞く余裕もなく、お礼の言葉を言うのが精一杯だった。

タクシーの運転手に何も説明をする訳でもなく、ただ気分の悪さを我慢していた。

家まで意識が持つかどうか不安になり、自宅近くのかかりつけの病院に行き先を変更した。


運転手は、まさか具合が悪い人だと思ってもいない様で、色々世間話をしてきた。

ニコニコして、親切なので、「私具合悪いんです」と言いにくい雰囲気。世間話の相手をするなんて拷問みたいだった。黙って静かにしていたかった。

何とか平静を保とうと、運転手に具合が悪いと感ずかれない様にしていた。

今思えば、何やってるんだ、と思うが、その時の自分はネジが外れた感じで、思考も滅茶苦茶だったと思う。


病院の前に到着した。平静を必死で装って何とかお金を払い、タクシーを降りた。

降りれたのは良いが、地面が斜めに揺れる感覚。おっとと、とあっちこっち、まるで酔っ払いだ。

でも、みっともない所は見られたくないと思い、身体を斜めにしながら、ふらふらと病院の中に入った。始業時間が近かったので、会社に体調不良で休むとだけ言い、すぐに電話をきった。


タクシーの中で、運転手が話しかけてくれた事で、具合が悪い事を悟られまいと踏ん張った事が良かったと思った。呼吸の乱れ、パニックになった頭を落ち着かせられた。

気を強く保っていたから、自分で病院まで来れたんだと思った。


受付をすませて椅子にすわると、一気に気が緩み、急激に気分が悪くなってきた。



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