遠い昔のお話。

今でも年賀状だけは届く古い友人M君。

学生時代に一時期だけ仲良しだった男友達。


友達というだけで、付き合っていた訳でもない。

一時期気が合い、アパートも近く、たまに一緒に電車に乗って遊びに出かけたりした事があった。


周りは面白がってひやかしていたが、「気にしないでおこうね」とお互い言っていた。


神田の本屋街に行って本を見て、帰りに渋谷に寄って食事をしたりする程度の付き合い。


初めてM君と遊びに行った時の出来事を思い出した。

朝、駅で待ち合わせた。切符を買う時、M君が「僕の切符も一緒に買ってくれない?お財布忘れて来ちゃった」と笑顔で言った。


(あらそれは大変だ、困るだろうな。助けてあげよう)と思い、「大丈夫よ」とだけ言い、私は彼の切符も買った。


(きっと彼は買いたい物も買えず、食べたい物も食べられず、可哀想だな。私に借りるのも、男の子だしカッコ悪いと思って遠慮するよね。)とその時の私は同情していた。


彼は裕福な家のボンボンだったけど、私は地方出身の貧乏学生だったので、あまりお金は沢山持っていなかった。

それもあって、自分ばかり買い物をしたり、食事に誘うのもやめて、早めに帰ろうと彼に気を使っていた。

お金を女子に借りてまで、一日中遊ばないだろうし、食事しようなんて彼から誘うはずがないと思った。


またいつでも来れるし、今日は、早めに切り上げようと思っていた。


だが、M君は、お昼になると「お腹すいた。ねえ、このお店に入ろうよ!」と私を誘った。確か「時間割」という名前のお店だったかな。

「名前が気に入った。お洒落だしね!」とM君ははしゃいでいたので、引きずられるように私も入った。

何のためらいもなく、さっさとランチを注文する彼。もしかして、財布持ってきていたのかな?勘違いだったとか?と一瞬思った。


彼の食べ方を見て驚いた。あっという間に食べて、「全然足りない」と言う。痩せてがりがりなのに、大食いだった。テレビにでるあの大食いのレベル。

普通の人の何杯も食べないとお腹が落ち着かないという。

支払いになると「お金立て替えといてね」と言って、さっさと彼は先に店を出た。

(えっ?やっぱりお金ないんだ。最初から私をあてにして誘ったの?)とショックが襲った。


本来なら、私が先に誘って「お腹すいたね。お金は心配しなくて良いから一緒に食べない?」と言うところよね?

全て先に先に、M君が誘って、当然の様にお金は払っててねと言う。

私は自分の買いたい物も買うのを止めていたし、仕送りの少ない学生の身分なのだから、その位考えてよと言いたいのを堪え、ちっとも楽しくなかった。

私はお財布の残りが心配になってきていた。


店を出て、駅まで歩いた。

当時はタバコの自販機があちこちにまだあった。


「タバコ吸いたくなったなあ。タバコ買うからお金貸して!」と当然の様にM君は手を出した。

(こいつ遠慮なんかしてねーし!信じられへん!)と私は呆気にとられていたが、あくまで貸しているのだから、おごっている訳ではないから、と言い聞かせて、貸した。


その後、あそこに行こう、ここに行こうとM君に連れ回された。

さすがに買い物はしなかった。

くたくたになり、帰宅する頃は暗くなっていた。


やっとアパートのある駅に着いた。やっと解放されるとほっとし、M君にさよならを言おうとした。

すると「ねえ、お腹空いた。晩御飯食べて帰ろうよ!」とM君が言った。