ケイさん夫婦の子どもが生まれていた事件を聞いても、そこまで深刻な友人の家の話を聞いていい物なのか、当時のまだまだ未熟な私には受け止めきれず、あえて聞き流す様な態度でなるべく感情移入しないようにしていた。


その後、私たちは就職したが、アパートを引っ越してお互い離れ、中々会えなくなった。


仕事が休みの日、久し振りに亜紀の新しいアパートに泊りがけで遊びに行った。

お互い仕事の話ばかりして部屋でくつろいでいると、ピンポーンとチャイムが鳴った。

来訪者はケイさんだった。ケイさんは私を見ても特に驚かず、「やあ、久し振り!元気だった?」と明るかった。

亜紀は少し動揺していた。「お兄ちゃん、何か用事?」と追い返そうとしていた。

ケイさんは「お前が捨てると言ってた古いタンス、貰いにきたんだよ。」と言って、中に入ってきた。

「今じゃなくてもイイじゃん。友達来てるし」と困った顔の亜紀だったが、私は全く気にしない顔で「どうぞどうぞ」と邪魔にならない様に動いた。

「亜紀が引っ越しして家具を買い直したので、古い家具を全てもらう約束していたんだ」とケイさんが話した。1人用の小さい物ばかりなので、ひょいと抱えながら笑顔で私に声をかける。

「僕の部屋、何にもないから助かるんだ。お金かかるから節約しないとね。ほらこのシャツもスーパーで買った奴だよ。安い物でもちっとも気にしない。じゅうぶん。じゅうぶん。」
と快活に話すケイさん。


前に聞いていた事と正反対だったので、(高級家具とブランドの服しか置かないようにしたはずでは?)と思いながら、私はとぼけて、にこにこしているだけだった。


ケイさんが帰った後、亜紀が話し始めた。
「ばれちゃったから言うわ。お兄ちゃんは、あれから離婚したの。話がついたのはついこの前よ。新居は解約して、アパートを借りたばかり。結婚式で貯金も使ったし、お金無いからこうやって妹を頼ってきたというわけ。」

「子どもの事を隠していたでしょう。流石にそれはないと私の両親からミキさんの両親へ連絡を入れたの。あちらも何も知らされてなかったし、元々、娘と父親が険悪で実家にあまり連絡を入れる人ではなかったそうなの。こちらに対する態度なども話して、今後どう付き合っていくつもりなのかをミキさんに確認してほしいとお願いしたの。」

「ミキさんは、私たちとは一生付き合わないと頑固らしくて、お兄ちゃんは、そこまで自分の親兄弟を嫌うミキさんに疲れ果てていたみたい。

ミキさんの両親とお兄ちゃん夫婦と話し合った結果、離婚が決まった。娘が悪いのだと、あちらのご両親が頭を下げてきて、慰謝料も養育費もいらない、娘と別れてください。と言われたの。向こうも、孫は自分たちが育てるし、経済的にも心配ないから娘の離婚を望んでいたみたい。

親でさえ反抗的な娘に手を焼いてきた。こんな娘と結婚して大変だったろうって、お兄ちゃんに頭を下げたのよ。人ってわからないものね。」


やり直すなら若い方がいい。奥さんと子どもさんが何の心配もいらないなら、安心だし。と私も納得し、どこかホッとしていた。

「お兄ちゃんは吹っ切れたみたい。ミキさんと出会ってからずっと暗くて、人が変わったみたいだった。今は昔の明るいお兄ちゃんに戻ったから、これで良かったのよね。」

「でもね、お母さんがね、落ち込んでるの。孫をとられたとか、一生会えなくなったとか言って。」

初孫だったし、色々楽しみにしておられたのだろう。