O恵の話は続く。


「私は周囲から祝福されて会社も辞めたのよ。今更結婚をやめるなんて事できない。何故、嘘をついていたの?ひどい!」


O恵は、怒りで一杯になり、婚約者に詰め寄った。


「私は絶対同居しませんと最初に条件にだしていたはずです。それをあなたが承諾したからお見合いしたのです。今更困ります。」



「破談だなんて、世間体が悪い、O恵は仕事も失ったんだ。どうしてくれるんだ。同居をやめてくれるなら、嘘ついた事は忘れてやるから、考え直さないか。」

とO恵側の親族も詰め寄った。

O恵に同居を承諾するように説得したところで、そんな事で結婚してもうまくいくわけがないと親族の誰もがわかっていた。
紹介した人も、責任を感じ、嘘をつかれた事に怒っていた。


そんな中、婚約者の返答はこうだった。

「僕は母親と同居したいのです。母の意志というより、僕の意志です。母を見捨てられません。それがかなわないなら、この話は無かった事にしてください。」


と、むしろ本人の同居の意志が強かったそうだ。

結果、式の直前に破談が決定した。


「相手の本音が結婚する前にわかって良かったわ。世間体は悪かったけど、自分の人生がかかっているのだから、これで良かったと思う。」

とO恵は気持ちを切り替えた様子だった。


そして
「今回の件は、勉強になったわ。」


「文系の人はだめね。次は理系の人にするわ」

という事だった。O恵のユニークさはそのまま変わっていなかった。(笑)


それからO恵は再就職して、時々私のアパートに遊びに来るようになった。

一緒にプロ野球観戦に行ったり、お互いの仕事の話をしたり、婚約破棄の件以来、彼女は私に親しみを持ってくれる様になった。


O恵は何か鎧が抜け落ちたみたいだった。



「ブランド品なら何でもいいと思っていた。今は違う。丈夫で使い易いのが一番ね。以前の私は子どもだったと思う。」
と言いだした。



ほんの1年のうちに、一緒に会社にいた時よりもずっと話しやすい大人の女性になっていた。
顔つきまで変わって笑顔が増えた。


その後私は結婚し、東京を離れ、O恵と会う事もなくなった。


私の第一子が1歳になった頃、O恵から手紙が届いた。



「私、結婚しました!」
と書いてあり、結婚式の写真が同封してあった。